人工関節置換術について
人工関節とは変形性股関節症や膝関節症、骨壊死をきたす大腿骨頭壊死、大腿骨内顆骨壊死(膝関節)、ほか関節リウマチの股関節、膝関節痛、感染や骨折後の下肢関節変形などに対して行われる手術です。本邦でも年間約10万件の手術が行われています。
これらの疾患に対し最初から手術加療を勧めることはありません。他の治療では十分な効果、改善が得られなかった場合に検討される治療法です。保存的加療は具体的には関節内注射、装具療法、理学療法(リハビリのことです)などがあります。現在、当院で行って人工関節手術としては股関節疾患に対して行う人工股関節全置換術(THA ; Total Hip Arthroplasty)、膝関節疾患に対して行う人工膝関節全置換術(TKA ; Total Knee Arthroplasty)、また膝関節内側または外側のみを置換する人工膝単顆置換術(UKA ; Unicompartmental Knee Arthroplasty)などがあります。
これらの人工関節置換術はすべての症例に適応があるわけではなく、比較的若年者には関節を温存する骨切り術というものが選択されます。人工関節置換術の適応としては末期の関節症で疼痛が強く,可動域制限が著しい症例,関節破壊の進行が急速な症例,関節リウマチによる変形などが良い適応とされます。年齢は60歳以上であることが望ましいのですが、特に関節リウマチを患っている方で日常生活に著しい障害をきたしている場合、そのほか両側性の重度の変形性関節症、ステロイドなど骨粗鬆化を惹起する薬剤を継続して内服する必要のある疾患(関節リウマチのほか喘息、腎炎、腎移植後など)があり既に骨壊死を発症している場合では若い方でもこの人工関節置換術を検討する場合があります。
人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty)
股関節疾患に対して行う人工股関節置換術(THA)は関節部分(大腿骨と骨盤側の凸凹の部分)を金属とポリエチレンでできた人工股関節に入れ替える手術です。ポリエチレンでできた部分が軟骨の役目を果たし、滑らかに人工関節が動くことができます。 変形性股関節症、大腿骨頭壊死症、関節リウマチの股関節痛などに行われることが多い手術です。
傷んだ関節を人工関節に置換することで痛みがなくなり、股関節の動きが改善され、歩きやすくなります。患者さんの日常生活の質を高める治療効果の高い手術です。この手術は従来は骨セメント(接着剤のようなもの)で人工物を骨に固定する方法が主流でしたが、最近はほとんどの症例で骨セメントを用いない人工関節置換術(セメントレス)を行うのが主流となっています。特に比較的若い時期に初回手術時が行われる事の多い関節リウマチ疾患では、以後再置換術を余儀なくされることが多く、その場合にセメントレス固定が骨温存に有利です。ただし変形が著しい場合やステロイドなどを内服されている場合、高齢の方で骨委縮が進行し髄腔拡大している場合は、手術を遂行するには強固な固定が必要であるため、骨セメントを用いる場合もあります。
重篤な合併症としては感染、血栓症、脱臼などのリスクがありますので、術後の徹底した日常生活の指導、リハビリが最も重要です。また長期的には10~15年を経て緩みを生じ、入れ替えの手術が必要となる場合があります。
変形性股関節症 | 大腿骨頭壊死 | 関節リウマチ |
さまざまな人工股関節置換術があります。
人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty)
人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty)または
人工膝単顆置換術(Uni-compartmental Knee Arthroplasty)
膝関節疾患に対して行う人工膝関節手術(TKAまたはUKA)は関節部分(膝関節を挟んで大腿骨と脛骨の凸凹の部分)を金属とポリエチレンでできた人工膝関節に入れ替える手術です。ポリエチレンでできた部分が軟骨の役目を果たし、滑らかに人工関節が動くことができます。 変形性膝関節症、大腿骨内顆骨壊死(膝関節)、関節リウマチの場合に行われることが多い手術です。
傷んだ関節を人工関節に置換することで痛みがなくなり、膝関節の動きが改善され、歩きやすくなります。この手術も患者さんの日常生活の質を高める治療効果の高い手術です。
この手術は股関節と異なり、一般的には骨への強固な固定を要するため骨セメントで人工物を固定します。骨セメントを用いない施設もありますが、変形が著しい場合やステロイド内服により骨質が悪いことが多く、当科では強固な固定が必要と考え全例骨セメントを用いています。ただ骨壊死症の場合は比較的若年者が罹患されることが多いため、この場合は可能な限り関節を温存する高位脛骨骨切り術が選択されます。人工関節手術を行う場合は内側の骨壊死部のみを置換する単顆置換術(UKA)を行います。
合併症としては感染、血栓症などのリスクがありますので、術後の徹底した指導、リハビリが重要です。また長期的には10~15年を経て緩みを生じ、入れ替えの手術が必要となる場合があります。
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高度のO脚変形
手術の前に
以上のような人工関節手術がありますが、術前には十分な説明を行い、理解していただき、また術後のリハビリにもご協力いただける場合は80歳を過ぎても適応があると考え、手術に臨んでいます。また外来などでご相談いただければ詳しくご説明させていただきます。人工関節手術を予定するにあたり、少しでも安全に行えるよう手術前には麻酔科や内科など他の部署と連携し、十分な評価のもと綿密な計画を立て万全を期すよう心がけています。この手術は当院では股関節、膝関節とも基本的には全身麻酔と硬膜外麻酔で行います。硬膜外麻酔は手術の前に背中から細いチューブを入れ、手術の後持続的に痛み止めの薬を持続的に注入する方法で、手術後の痛みをかなり抑えることができます。手術は術中の細菌感染を防ぐ目的で、クリーンルームという特別な手術室で行います。術者自体も当然無菌の手術着を着て手術に臨みます。また人工関節手術は時によっては出血が多くなることもあります。当院では極力ほかの輸血を必要としないよう、貧血がない場合は手術前に予めご自分の血液を貯めておき、手術の際に使う自己血貯血を行っています。
クリーンルームで手術を行います 硬膜外麻酔を行なっているところです
手術後のリハビリについて
MISによって手術した場合は股関節、膝関節の場合でも術後2~4日目から歩く練習を行い、ほとんどの患者さんが手術後1~2週で1本杖を使って歩けるようになります、中には階段昇降も可能となる方もおられます。長く入院ができない方は2~3週間で退院ができますが、十分回復が得られていない場合は、ご相談させていただいたうえで、リハビリ専門の病院にてもう1-2ヶ月ゆっくり治療を続けていただく方法もあります。